奈良県域水道一体化 市町村の内部留保 3分の1が収益との比率、全国平均以下 県資料から判明
県域水道の一体化に向けて奈良県が参加を要請してきた県内28市町村それぞれの水道会計における内部留保資金(現金と預金の合計)の額が、県が作成した資料から分かった。総額は約435億円(2018年度)。また、年間給水収益に対する内部留保資金の比率は、3分の1の10市町村が全国平均の112%を下回っていた。同比率は、市町村が単独で将来の設備投資をする場合の余力を見通す目安の一つになる。 表の後に記事の続き
| 市町村 | 現金と預金の保有額 (1000万円未満 切り捨て) |
年間給水収益 (1000万円未満 切り捨て) |
年間給水収益に対する 内部留保資金の比率 (全国平均112%) |
|---|---|---|---|
| 大和郡山市 | 82億3000万円 | 18億3000万円 | 449% |
| 奈良市 | 66億6000万円 | 72億1000万円 | 92% |
| 生駒市 | 48億4000万円 | 22億7000万円 | 213% |
| 橿原市 | 30億1000万円 | 26億9000万円 | 111% |
| 天理市 | 25億1000万円 | 18億6000万円 | 134% |
| 香芝市 | 24億5000万円 | 14億9000万円 | 163% |
| 広陵町 | 19億3000万円 | 6億4000万円 | 298% |
| 葛城市 | 17億6000万円 | 5億5000万円 | 319% |
| 王寺町 | 14億4000万円 | 5億円 | 288% |
| 桜井市 | 13億1000万円 | 10億8000万円 | 121% |
| 大淀町 | 11億円1000万円 | 3億2000万円 | 338% |
| 上牧町 | 10億円8000万円 | 4億4000万円 | 245% |
| 宇陀市 | 10億円1000万円 | 5億9000万円 | 172% |
| 大和高田市 | 7億円 | 15億5000万円 | 45% |
| 田原本町 | 6億3000万円 | 6億7000万円 | 94% |
| 三宅町 | 5億5000万円 | 1億3000万円 | 412% |
| 御所市 | 5億4000万円 | 5億7000万円 | 95% |
| 三郷町 | 5億3000万円 | 4億7000万円 | 113% |
| 明日香村 | 4億4000万円 | 1億4000万円 | 306% |
| 河合町 | 3億9000万円 | 4億7000万円 | 82% |
| 斑鳩町 | 3億7000万円 | 6億1000万円 | 60% |
| 安堵町 | 3億5000万円 | 1億3000万円 | 263% |
| 吉野町 | 3億4000万円 | 1億8000万円 | 187% |
| 川西町 | 3億1000万円 | 1億7000万円 | 182% |
| 五條市 | 3億1000万円 | 6億9000万円 | 44% |
| 高取町 | 2億9000万円 | 1億7000万円 | 172% |
| 平群町 | 1億9000万円 | 3億9000万円 | 49% |
| 下市町 | 1億3000万円 | 1億3000万円 | 102% |
県の一体化の方針では、参加市町村は水道事業の資産、負債をすべて持ち寄る。県水道局業務課によると、水道会計において、内部留保資金に関する統一的な解釈はないが、現金と預金がこれに当たると考えられる。県は、大和郡山市が昨年6月、内部留保資金のうち28億円を一般会計に移したことをきっかけに、各市町村の現金と預金の保有状況をそれぞれの決算資料から確認、同8月、水道一体化推進資料として各市町村に配布した。
内部留保資金が最も多かったのは大和郡山市で82億円。28市町村合計の約2割を占める。年間給水収益に対する比率も449%と最高だった。一方、同比率が最も低かったのは五條市で44%。1位と最下位の同比率の開きは10倍あった。大和郡山市は本年1月の一体化への参加に向けた覚書に署名していない。
年間水道収益に対する内部留保資金の比率が低いところは一般会計の財政状況も悪い。県は昨年11月、奈良市、五條市、宇陀市、平群町、河合町の5市町に対し、「重症警報」を発令している。宇陀市を除く4市町は、同比率が全国平均を下回っている。
一方、大和郡山市の成績が良いのは、約30年前、市が水道会計において証券投資信託に手を出して失敗し、4億数千万円もの損失を被った教訓があるからだといわれる。この3月定例市議会でも「この事件を契機として、健全化が強く意識され内部留保資金の蓄積が進んだ」と市議が指摘している。
将来の人口減や設備更新などに備えて、積み立てられる内部留保資金は、市町村の水道経営の安定度を探る上で目安となる。嶋田暁文・九州大学大学院法学研究院教授は昨年3月、自治体学会の学会誌「自治体学」に発表した論文「水道事業のガバナンス―水道法改正を踏まえて」の中で「ほとんどの自治体では、水道料金の低廉さを求めるあまり、将来の更新に要する費用を料金に組み込むことによって内部留保資金を確保する努力を怠ってきた」と水道事業の傾向を批判した。 関連記事

