追跡)奈良県安堵町の産廃処理補助金を巡る問題 住民訴訟判決を経て浮かぶ注目すべき点

奈良県安堵町役場=2026年5月22日、同町東安堵、浅野善一撮影
奈良県安堵町が2020年度に町同和地区産業廃棄物処理組合に交付した補助金の一部が住民訴訟判決で違法とされたのを機に、「奈良の声」がこの問題の取材を始めて分かったこと、それはほかにも表面化していない注目すべき点があるということ。
このニュースの要点
1)産業廃棄物の名目で収集された組合員のごみは、実際は事業系一般廃棄物がほとんどだったのではないか。そしてその処理は、家庭ごみしか受け付けないとしてきた町のごみ焼却施設で行われていたのではないか。
2)「産業廃棄物」を排出していないのに、排出者事業者として町が交付したことになっているマニフェスト(産業廃棄物管理票)について、収集運搬業者の当時の関係者は自分たちが“代筆”していたと述べた。
3)補助金は廃止されたが、組合員のごみの収集運搬費用を公費で補てんする仕組みは、その後も2年間、町から収集運搬業者に直接、業務を委託する形に変えて維持された。
4)町内の事業者が排出する一般廃棄物の処理について、町には法に沿って責任を果たすための体制が整っていなかった。条例改正により他市町村と同様の対応ができるようになったのは2023年度から。
問題の経緯
町は1989年、同和対策支援事業として「町産業廃棄物排出業者に対する補助金交付要綱」を制定。組合はその補助金の受け皿として設立された。組合員は靴工場など合成皮革やかしわ、ゴムなどの産業廃棄物を排出する町内の事業者で、補助金はこれら廃棄物の処理に要する経費の一部を補助することを目的とした。
2024年1月の住民訴訟判決(奈良地裁)は、組合による産業廃棄物の排出・処理の事実は確認できないとして、損害賠償請求が可能な2020年8月から2021年3月までの補助金約216万円について違法な支出とし、指揮監督の義務を負う西本安博町長に過失が認められるとした。町長は町に対し同額を賠償した。
組合のごみ、町の焼却施設が受け入れか
裁判以前の2021年9月の町議会一般会計決算審査特別委員会で、同補助金の執行状況を巡って質疑があった。当時の住民課長は組合員が排出しているごみについて「昔は産廃が中心だったと聞いているんですが、いわゆる一般廃棄物を中心として今現状、収集を行っていると聞いて確認はしております」(委員会会議録)と答弁している。「産業廃棄物」がすでに名目にすぎなかったことを示す発言だ。
これを踏まえて次の点に注目する。
町は裁判所に提出した2023年1月24日付の準備書面で、組合が産業廃棄物を排出・処理していたことを示す資料として、当時のマニフェストを提示した。マニフェストには産業廃棄物の排出から処分までの処理の流れが記録されているが、記載内容に不思議な点があった。排出事業者の署名欄が、実際に廃棄物を排出していた組合員の事業者名ではなく「安堵町(環境美化センター)」となっていた。

安堵町が住民訴訟で裁判所に提出したマニフェスト。左上の排出事業者の署名欄に「安堵町(環境美化センター)」とある=原告住民提供(一部をぼかしています)
その理由について同準備書面は次のように説明していた。
「A社(組合がごみの収集運搬を委託していた廃棄物収集運搬業者、書面では実名)は、本件組合員を含む者から収集した廃棄物を産業廃棄物としてB社(処分業者、書面では実名)の最終処分場に搬入していた。このマニフェストの排出事業者が安堵町(環境美化センター)となっているのは、組合の組合員やそれ以外の者から集めた廃棄物をいったん安堵町環境美化センターに集積した上で、最終処分場に持ち込んでいたためである。したがって安堵町とA社との間に直接の委託関係はなく」と。
何のために「廃棄物をいったん町環境美化センターに集積」していたのか。この説明にあるように、町とA社の間に委託関係はないとすれば、町が組合員のごみをいったん受け入れて、その上でごみの処理をA社に委託していたということを指しているわけではない。
町住民生活部長は取材に答えて、マニフェストの排出事業者が「安堵町(環境美化センター)」となっていたことについて、当時の担当者に聞いても「分からない」との返事だったとし、「町が産業廃棄物を排出していたわけでない」と述べた。
マニフェストの収集運搬業者の運搬担当者の署名欄に名前があったA社の当時の関係者(現在は退社)が取材に応じた。
この元関係者は「収集した廃棄物はいったん環境美化センターに集め、焼却処分できるものと不燃物に分けた。不燃物はコンテナ1台分がいっぱいになったら最終処分場に運んだ」と述べた。不燃物は缶や瓶、金属くずなどだったという。マニフェストに記載された廃棄物の品目にも「ガラス・陶磁器くず」「金属くず」などがあった。
A社は集積した廃棄物のすべてを最終処分場に運んでいたわけではなかった。焼却処分できるごみはセンターで受け入れてもらっていたということになる。
これは、表向きには家庭ごみしか受け付けないとしてきた町が、その説明に反して事業活動に伴って生じたごみを受け入れていたことを示す。
先の町議会一般会計決算審査特別委員会で住民課長は「これまでは本町の環境(美化)センターの状態によりまして事業系は一切受け付けていなかったんです」と明言している。
「これまで」というのは、1991年完成の町環境美化センターの焼却炉が故障して、2020年8月以降、天理市にごみの焼却を委託することになるまでのこと。それまでは焼却炉の負担が大きいとの理由で事業活動に伴って生じる事業系一般廃棄物を受け付けていなかった。
事業系一般廃棄物の処理に対応するための制度も未整備だった。「町廃棄物の処理及び再利用の促進に関する条例」が定めるごみ処理手数料には、町が直接収集するごみ(家庭ごみ)の手数料(ごみ袋の代金)しか示されていなかった。A社の元関係者も取材に対し、同センターへのごみ持ち込みに当たって処理手数料は払っていなかったと述べた。
廃棄物処理法に従えば、事業系一般廃棄物は、その区域の市町村の許可を得た一般廃棄物収集運搬業者が収集して各市町村のごみ焼却施設に持ち込むことになるが、安堵町は許可を出すための制度を整えておらず、収集運搬できる許可業者が存在しなかった。このためA社にも町の許可はなかった。
関係する各方面への取材を重ねる中で別の人物からも話を聞くことができた。要約すれば「センターはキャパシティーがなく事業系一般廃棄物は受け入れていなかった。ただ、組合の委託先であるA社が収集した廃棄物については、町が組合に補助金を交付していた関係で受け入れていた」というものだ。
A社が収集した組合員のごみを町環境美化センターが受け入れていたことを裏付ける事実がもう一つある。
町が環境美化センターの焼却炉の故障で天理市にごみの焼却を依頼したときのこと。町は、同市環境クリーンセンタ―にごみを持ち込むことになる収集車のナンバーを市に伝えた。この際、町所有の収集車のナンバーに混じってA社の収集車のナンバーが複数あった。
この事実は、「奈良の声」が天理市に対し、安堵町に対するごみ処理手数料の請求書などを開示請求して、公開された計量明細などを基に取材を進めて分かった。計量明細には日々のごみの持ち込み量がナンバー別に記録されている。町にとって、A社が町環境美化センターに持ち込んでいた組合員のごみの行き先を確保する必要があったとみられる。
A社の元関係者も「奈良の声」に対し、町環境美化センターが使用できなくなった後は、天理市環境クリーンセンターにごみを持ち込んだと述べた。加えて、マニフェストは必要なくなったとも述べた。事業者が排出する飲料用の缶、瓶は産業廃棄物に分類されるが、同センターは洗浄してあるものについては廃棄物ではなく有価物として扱い受け付けていた。
排出事業者「安堵町」のマニフェスト、収集運搬業者側で作成
裁判所に提出されたマニフェストを用意したのは町ではなくA社だった。廃棄物処理法により、産業廃棄物の運搬、処分には排出事業者が交付するマニフェストが必要。町が交付したマニフェストであれば、その控えが町に保管されていなければならなかった。
A社の元関係者は「奈良の声」に対し「マニフェストは収集運搬業者側で“代筆”していた。最終処分業者に不燃物を受け入れてもらうために必要だった」と述べた。安堵町を排出事業者とするマニフェストは収集運搬業者側で作成したものだった。
産業廃棄物の処理の委託に当たっては、廃棄物処理法により、排出事業者は収集運搬業者、処分業者それぞれと書面により委託契約を結ばなければならない。安堵町は、先の町の準備書面でA社との間に収集運搬の委託関係はなかったことを明らかにしているが、「奈良の声」はマニフェストで処分の委託先となっているB社など2社についても、町との委託契約書が存在するか確認した。
取材に対し、B社は「あったとしても、なかったとしてもお答えできない」、もう1社も「あるにしてもないにしても、その事実をそちらにお伝えする必要はないと思っている」と回答した。
補助金廃止も業務委託に形変え公費負担を維持
組合への補助金交付は、裁判の原告住民の提訴前からの追及もあって2020年度を最後に廃止された。しかし、組合員のごみの収集運搬費用を公費で補てんする仕組みは、その後も2021年度から2年間、町から収集運搬業者に直接、事業系一般廃棄物の収集運搬業務を委託するという形に変えて維持された。補助金廃止は形式的なものともいえた。
原告住民が町への開示請求で得た「事業系一般廃棄物業務委託契約書」などから、委託先は組合の委託先と同じA社だったことが判明した。随意契約だった。委託料も補助金とほぼ同額の年間300万円だった。
このように事業系一般廃棄物の収集運搬費用を公費で負担することは、補助金の目的とされた同和対策支援事業の名目がなくなった時点で問題があった。廃棄物処理法を踏まえた「町廃棄物の処理及び再利用の促進に関する条例」は「事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない」と定めている。事業系一般廃棄物の収集運搬や処分の費用は事業者の負担によらなければならない。
町は補助金をやめて業務委託に変えた理由について、先の町議会一般会計決算審査特別委員会で説明している。当時の住民課長は、組合からの補助金申請の受け付けをしてきた町人権ふれあいセンターの職員にも相談した上でのこととして、「その事業をやめてしまうと、今までの処分してきたごみの行き場がなくなってしまいますので、そのごみを継続して処分できるような形での環境の方を整えたというところでございます」と述べている。
組合員の数についても堀口善友副町長(当時)は同委員会で「何軒か、すでに廃業されている所も、また新たに排出者となられている事業者もおられます」と答弁していた。先の町の準備書面もA社が産業廃棄物の名目で収集していたごみについて「組合員やそれ以外の者から集めた廃棄物」としていた。
2021年12月に起こされたこの住民訴訟での、組合による産業廃棄物の排出・処理はあったとの町側の主張は、それまでのこうした答弁との整合性を欠くものでもあった。
このほかにも、同収集運搬業務委託を巡っては問題が見つかった。裁判の原告住民が2025年2月、町に対し2021年度の業務終了報告書を開示請求したところ、文書不存在だった。A社が提出していなかったものとみられる。報告書の提出は業務委託契約書に示された取り決めの一つで、町住民生活部長によると通常は請求書と一緒に提出されるものだという。
収集運搬業許可、事業系一般廃棄物受け入れ 2023年度から他市町村並みに
町はこの業務委託の期間を経て2023年度、町内で排出される事業系一般廃棄物の処理について、他市町村並みの対応ができる体制を整えた。「町廃棄物の処理及び再利用の促進に関する条例」を改正し、事業系一般廃棄物に対するごみ処理手数料を定め、事業者が一般廃棄物の収集運搬を委託できるよう一般廃棄物収集運搬業の許可制度を整備した。
廃棄物処理法により一般廃棄物の処理責任は市町村にある。町は事業系一般廃棄物の処理についても、その責任を果たせる形になった。
安堵町から天理市環境クリーンセンターへのごみ処理の委託は2025年4月までで、同年5月からは同町も参加する山辺・県北西部広域環境衛生組合のやまとエコクリーンセンター(天理市)が処理施設となっている。
【一般廃棄物と産業廃棄物】
廃棄物処理法では、廃棄物は一般廃棄物と産業廃棄物に分類される。家庭ごみは一般廃棄物に分類される。一方、事業者から排出される廃棄物は一般廃棄物と産業廃棄物に分類される。産業廃棄物は事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、燃え殻や汚泥、廃油など同法が指定する20種類の廃棄物をいい、それ以外の廃棄物が一般廃棄物となる。
家庭ごみの収集は通常、市町村が行う。一方、事業活動に伴って生じた廃棄物の処理は事業者が自らの責任で行わなければならない。このため一般廃棄物に分類されるものついては、市町村の許可を得た一般廃棄物収集運搬業者に委託して市町村の処理施設に搬入してもらうか自ら持ち込むかするが、その際、事業者は処理手数料を負担する。産業廃棄物については、都道府県などの許可を得た産業廃棄物収集運搬業者や処分業者に処理を委託する。
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