育児休業中の傷病手当金請求に「対象外」 公立学校共済組合奈良支部、通知後に不服申し立て受け撤回

奈良県庁の県教育委員会福利課にある公立学校共済組合奈良支部=2026年10月22日、奈良市登大路町、浅野詠子撮影
奈良県内の公立小中学・高校、大学の教員や教育委員会職員の医療保険や年金給付を担う公立学校共済組合奈良支部(支部長・大石健一県教育長)は2024年、公立学校に勤務する組合員の女性の傷病手当金の請求に対し、対象期間のうち育児休業期間は「非該当」と通知したが、女性が同組合審査会に不服申し立てをすると撤回、全期間を給付対象と決定した。女性への取材で分かった。
通知は「非該当」とした理由について「育児休業の承認を受けている期間は、そもそも労働の義務がないため、傷病手当金の支給対象外となる」と説明していた。
公立学校共済組合は地方公務員等共済組合法に基づき設置されている。奈良支部の組合員数は約1万6000人。事務局は県教育委員会福利課に置かれている。傷病手当金は組合員が病気やけがの療養のため職場を休み、給与が減額されたときに補填(ほてん)される。
女性は県立医科大学(橿原市四条町)に勤務する医師で、傷病手当金を請求したのは抑うつ状態と診断され療養のため勤務に服することができなくなったため。対象期間は2023年4月から2024年10月までの約1年半だったが、奈良支部はこのうち育児休業期間の2024年1月末から同年10月末までの約9カ月が給付対象外となることを、正式な給付金決定通知の前の「お知らせ」で医師に通知した。医師は2023年12月に出産をしていた。
医師は奈良支部の判断を不服として2024年12月、同組合審査会に審査請求。すると奈良支部は2025年3月までに、全期間を給付対象とする給付金決定通知書を医師に送付、約500万円を支給した。育児休業期間を除いた場合の給付額は約260万円だった。
審査請求で医師は、健康保険に関する国の通知(1992年、旧社会保険庁、現・厚生労働省)が「傷病手当金または出産手当金の支給要件に該当すると認められる者については、その者が育児休業中であっても傷病手当金または出産手当金が支給されるものである」と明示していると主張した。また医師は、健康保険法が共済組合の給付の種類、程度は、同法の種類、程度以上であることを要するとしていることにも言及。不支給決定は「出産を理由とする不利益取り扱いに当たる」と訴えた。
審査請求そのものは今年3月、「(「お知らせ」は給付額)決定処分前の案内としての見解を通知したもので、(地方公務員等共済組合)法が規定する決定通知ではない」として請求を却下された。
医師は奈良支部に対し判断が一転した理由を尋ねているが、回答はないという。同支部は保険料を納めている組合員に対して説明責任を回避している。
「奈良の声」は奈良支部に取材を申し入れたが、「個人情報保護の観点から一切、答えない」とした。
文部科学省財務課公立共済係は取材に対し「個別の案件については取材に応じられない。組合内で処理されるべきものではないか」と話した
厚労省の労働相談担当者は「公立学校共済組合に加入する公務員の労働問題は原則、管轄外であり、取材には応じられない。同組合奈良支部はいったん不支給の決定をした後に、運用の誤りに気付いたことも考えられる」と話した。
医師は第1子、第2子の出産前後や育児中のときの複数の上司の対応を巡って抑うつ状態となった(「奈良の声」既報)。医師は「発症したのは職場の環境」が原因として葛城労働基準監督署に労災を申請したが、2024年9月、休業補償給付金は不支給とされた。生活を支えるため公立学校共済組合奈良支部に傷病手当金を請求したという。
労災については、労基署の判断を不服として審査請求したが今年3月、棄却された。現在、労働保険審査会に再審査を請求している。労災が認められた場合は、制度の規定に従い、奈良支部から支給された傷病手当金は返還する。
筆者情報
- ジャーナリスト浅野詠子
- 電話 090-7110-8289
- メール info@asano-eiko.com
- ツイッター @asano_eiko








